堀江貴文氏の「目標も計画も持たない理由」と経営指針の関係
航海図を手に船を進めていくのと、今船首から見えるものだけを情報に船を進めていくのとでは、3年後、5年後、10年後に雲泥の差が出ます。そしてもちろん、今後の働きやすさにも影響します。
しかし、実業家の堀江貴文氏は「目標も計画もいらない」と発言されています。文字面だけを眺めていると、当社の経営指針の対極にあるような発言に思えてしまいます。果たして会社において経営指針、経営計画は不要なのでしょうか。堀江貴文氏の著書「時間革命 一秒も無駄に生きるな」から抜粋して経営指針との関係を探ります。
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堀江氏の「目標も計画も持たない理由」
堀江貴文氏は著書「時間革命 一秒も無駄に生きるな(朝日新聞出版)」で「目標も計画も持たない理由」をこう書いています。
「まず3カ月以内に○○して、半年後には○○する。3年後には○○して、5年後、10年後には……」というふうに、やたらと細かくステップを踏みたがる人が多い。 いまだに「計画→実行→評価→改善」からなるPDCAの本がベストセラーになったりしているところを見ると、「将来の計画(Plan)からはじめる」というのが、人々の思考のクセになり、行動を妨げてしまっているように思う。 しかし、わざわざ段階を踏む必要なんてあるのだろうか? 0歩でたどり着けるなら、それがベストではないのだろうか?
極端な話だが、今この瞬間に、信頼する人から「6時間後に知的生命体のいる別の恒星系に向けてロケットが出発しますけど、堀江さんも乗りたいですか?」と声をかけられれば、ぼくは躊躇なく「もちろん!」と答えるだろう。 「何も訓練していないし……」とか「コンディションをもう少し整えてから……」とか「事故のリスクはないのかな……」とかいったことは考えない。 ぼくにとっての「やりたいこと」は、決して「いつか叶えたいこと」などではない。実現できるなら、今すぐにでも実現してほしいことばかりだ。 ぼくは何事についても、どうすれば「最短の時間・距離」で実現できるかを考えている。
例えば以前、テレビ局買収に向けて動いたことがあった。これは「テレビとインターネットを融合させれば、絶対に面白いサービスがつくれる!」という確信があり、「テレビ局の買収こそが最短ルートだ」と判断したからである。つまりぼくは、もともとテレビ局のオーナーになる「計画」を立てていたわけではない。 現実の世界、とくにビジネスの世界では、将棋の棋士のように何手も先を読んで行動するのはナンセンスだ。経営計画とか経営戦略なんてものも、コンサル屋たちが稼ぐためにつくった「絵に描いた餅」だと思ったほうがいい。 「将来に向けて、どんなことを勉強すればいいですか?」 こんなことを聞いてくる人も、「計画」とか「戦略」の呪縛に陥っている。 ビジネスが計画どおりにいくことなんてない 何を学ぶべきかなんて、そのときになってみないとわからない。何かに“備える”ための勉強なんて、苦痛でしかないはずだ。 「大学に合格するため」「転職するため」「依頼された仕事を終わらせるため」「会社をつくるため」……など、短期的なゴールを達成するうえで、どうしても必要だから勉強するのである。 ぼくが起業したときだって、それまでは麻雀をやっては酒を飲むばかりの大学生だったわけで、何か具体的な勉強をして準備をしていたわけではない。サイト制作の依頼を受けるたびに、さまざまなプログラミング言語やデータベースなどの知識・技術を、独学で仕入れていっただけである。 「戦略的に段階を踏んでマーケットを押さえていく」というのは、お勉強好きな人間たちが後づけで考えた「お話」にすぎない。
「計画を立てることで、リスクを減らすことができる」なんて幻想だ。ビジネスが計画どおりにいくことなんてないし、何よりそんなことを考えている時間がもったいない。 緻密な計画なんかなくていい。「やりたいこと」があるやつが本当に強い。 それを実現するための知識を、素早くインプットしていければ、もはや最強だ。 やりたいことがないまま、「何を学べばいいのか?」などと計略を弄するのは実にくだらない。 先のことなんてわからないし、わかりたくもない。唯一確かなのは、1年後も、10年後も、100年後も、ぼくは間違いなく何かにハマっているということだ。
経営指針と人生指針で熱狂とチャレンジ精神を!
大企業が陥る大企業病
「大企業病(だいきぎょうびょう)」という言葉。トヨタのカイゼンを学んだ方は聞いたことがあるでしょう。Wikipediaによると、「大企業病」とは、
主に大企業で見られる非効率的な企業体質のことである。 組織が大きくなることにより経営者と従業員の意思疎通が不十分となり、結果として、組織内部に官僚主義、セクショナリズム、責任転嫁、縦割り主義などが蔓延し、組織の非活性をもたらす。
とあります。トヨタ自動車が「カイゼン」を始めたのは、大企業病に陥ってしまったことがきっかけでした。
企業の大小に関わらず老舗企業が陥る「老舗企業病」
大企業病はその名の通り大企業が陥りやすい病ですが、企業規模に関わらず老舗企業も陥りやすい病があります。それを「老舗企業病」と言います。ある程度年月を重ねてきた企業は安定感を感じてしまい、無理な変革や新しい事業への挑戦をする必要がないと感じてしまい、会社が目指す方向を現状維持へと舵取りしてしまうのが老舗企業病の一番の原因です。これは会社全体だけではなく、経営者や社員個人にも見られます。
ルールを遵守することは素晴らしいことではありますが、一方であまりに固執し過ぎてしまうと、それが新しいことに挑戦する心や仕事を始めたばかりの頃の熱気を私たちから奪っていきます。つまり、前日と同じことを繰り返す日々が続いてしまうと、次第に仕事をする目的を考えなくなってしまうのです。そして会社や同僚が新しいことに挑もうとした際、その意味が深く理解できず、思考することなく拒絶反応が出てしまいます。また、そのような企業に入社した新入社員や中途採用の社員は、それをすぐに察し、元来チャレンジ精神がある者はその企業を早々に離れ、一方で元来現状維持を求めていた者はますます老舗企業病を悪化させる構成員となっていきます。
ベンチャー精神とは
アマゾンやアップル、日本のサイバーエージェントはガレージや少人数で始めたベンチャー企業です。今ではメガベンチャー企業と呼ばれていますが、現在単独で1500名、連結で5000名以上の従業員を配するサイバーエージェントも、今から22年前の創業時は創業者の藤田社長と同期入社の正社員、そしてアルバイト3名の計5人で始めた営業代行会社でした。
そもそも英語でベンチャー(Venture)とは冒険的事業を意味することからも、ベンチャー精神とは、新しい商品や新しい市場価値を、旧態依然のやり方や事業規模に囚われず挑んでいく「勢い」と言えるでしょう。
ベンチャー企業にも成長痛(=企業病)が存在する
しかし、ベンチャー精神からスタートしたベンチャー企業も従業員数がどんどん大きくなると、従業員数に比例した成長の壁が現れます。それが俗にいう30人の壁・50人の壁・100人の壁です。ベンチャー企業であればどんなに大きくなってもベンチャー気質が損なわれないことはありません。つまり、ベンチャー企業であっても、企業の規模が拡大し、徐々に安定していけば、病(やまい)にかかりやすくなるということです。その延長線上に大企業病が存在し、企業の大小に関わらず会社の歴史が長くなれば老舗企業病が存在します。
成長痛も事業成長の妨げになると感じる堀江氏
堀江氏は、自身の実業の単位を「会社」ではなく「個」にすることで、成長に伴う病にかかることを回避しているのでしょう。つまり、実業=会社ではなく、実業=堀江氏を始めとしたベンチャー精神を失っていない個の集合体を維持しようとしているのです。わかりやすい話、実業=会社では企業病に罹患しやすく、時と安定と共に「熱狂」が失われていく傾向にあるのに対して、実業=ベンチャー精神を失っていない個の集合体は、「熱狂」を維持するための仕掛けとも言えるでしょう。
「目標も計画ももたない」と発言される堀江氏ですが、サイバーエージェントの藤田氏は、創業したばかりの頃、東京大学を中退しオン・ザ・エッジを立ち上げた堀江氏を訪ねた際、「(堀江氏は)初めて会った日から宇宙の話をしていた」と回想しています。堀江氏の宇宙への思いがいつからかはわかりませんが、少なくともその時からしても四半世紀以上、宇宙に熱狂していることとなり、結果今は実際にロケットを飛ばしています。「やりたいことがあるやつが一番強い」を堀江氏が一番実践しているようです。
「目標や計画は不要」と言いながら、ロケットを飛ばしている堀江氏がその日の気分次第で発射台にロケットを設置しているはずはないでしょう。毎回の発射の度にその目標と計画を立てているはずです。ですから、堀江氏の言葉を鵜呑みにしてはいけません。堀江氏が伝えたいのは「夢を持ち日々熱狂して挑戦を続けよ」ということです。「熱狂できるものに対し挑戦しようとすれば、目標や計画は自ずとその副産物として必須となってくる。しかし目標や計画を主産物だと考えて、夢も熱狂もないまま目標や計画から立て始めるのは愚の骨頂だ」というメッセージです。
熱狂とベンチャー精神を会社と個人に注入するのが「経営指針」
経営指針(昨年度まで当社では「経営計画書」と呼んでいました)は、目標や計画を主産物として生み出すことを目的に毎年策定しているのではありません。策定の目的は、会社と社員一人ひとりに「熱狂とベンチャー精神」を注入するためです。経営指針策定の主産物は「熱狂とベンチャー精神が注入された会社と社員一人ひとり」です。
経営指針の策定を通して、企業病の原因として挙げた「見失いがちな仕事の目的」を再確認し、毎年新しい挑戦に着手してきました。そして経営計画発表会では、毎年多くの来賓の方々の前で新しい挑戦を発表し、来賓の方々には私たちのファンとなって次の1年を応援していただくようお願いしてきました。来賓の数=ファンの数も、10年前の発表会は10名足らずだったのが、昨年度は70名を超えるようになりました。
当社の経営指針の策定は2009年から、経営計画発表会は2010年から開始しました。それを1年も怠ることなく継続した結果、つまりこの10年、常に熱狂とベンチャー精神で飽くなき挑戦を続けてきた結果、日本の西の果ての小さな企業でも企業の規模以上に全国的な認知度を得るようになりました。熱狂もせず、挑戦も求めてこなければ、経営指針も発表会も存在しなかったでしょうし、今頃は時代を乗り切る術を知らず、地域社会やお客様、そして社員の皆さんに対し、ただ世の中に存在する「無責任な会社」として存在していたかもしれません。
堀江氏の発言と経営指針の本質は全く同じです。社員の皆さんにおいては、目標や計画を策定してあるのが経営指針だと勘違いしないでください。経営指針はそんな低レベルなものではありません。常日頃から「経営指針は会社のバイブルである」と表現しています。日々の生活の中で悩み苦しみ壁にぶつかった時に、聖書を始めとした自分が信仰している宗教の書物を開く方がいるように、経営指針は私たちの日々の仕事の中で悩み苦しみ壁にぶつかった時に開くものなのです。
当社は常に熱狂とベンチャー精神を持ち続ける企業であり続けます。そして社員皆さん一人ひとりも、常に熱狂とベンチャー精神を持ち続けていただくことをお願いします。これからの時代、熱狂とベンチャー精神がなければ仕事も人生も楽しめない時代=冒険の時代へとますます加速していきます。そのために、これからも当社は魂を込めた経営指針を策定し続けます。
これからも経営指針を活用して熱狂、そしてベンチャー精神を注入していきましょう。